中古マンションリノベーションを提案する会社の多くは、見た目をとても重視してます。

カフェ風のリノベーションであったり、コンクリートがむき出しのスタイリッシュで洗練された都会的なリノベーションだったり。

そういった雰囲気が好きな方に感じのいいリノベーションを提案することは悪いことではありません。

ただ、見た目を重視しすぎるあまり肝心の住み心地や暮らしやすさが軽視されていることが多い・・・。

実際、リノベーション専門誌などのマンションリノベーションの間取り事例を見ると、

「これは寒いだろうなぁ・・・」
「収納が少ない」
「壁位置が少し変わっただけで暮らしやすくない」
「将来どうするつもりなんだろう?」

など、いろいろとツッコミどころが満載です・・・。

そんな住まいになってしまう理由は中古マンションが性質として持っている特有の欠点のことを無視したリノベーションをしているからなんです。

だから、暮らし始めはおしゃれな住まいへの満足度は高くても、時間が経つにつれて暮らしにくさに気づくことになる

そうならないためには、まず中古マンションの欠点がなんなのかを知ることが重要です。

以下、中古マンションの欠点とリノベーションでどう解決すればいいのかをまとめました。

多くのリノベーションが暮らしにくくて、快適ではない理由もわかります。

快適で暮らしやすい中古マンションリノベーションをするために、標準とすべき工事について知ってください。

 

中古マンションの冬は結露と寒さがひどい

まず一番の欠点は「寒い」ということです。実際にマンションに長年暮らしている人に聞くと

「LDKは暖かいけど廊下に出ると寒い」
「北側の部屋が暗くて寒い」

という寒さの不満が圧倒的に多いんです。

そうなる理由は単純で、中古マンションの断熱性能はとても低いから。

ほとんど全てといってもいいですが、中古マンションに吹き付けてあるウレタン断熱材の厚みはせいぜい20mm程度。中には断熱材ナシという物件も・・・。

快適に暮らせる性能がそもそもないんです。

さらに言えば、中古マンションはサッシ性能も非常に低い・・・。

窓際が寒いのは当たり前、と思うかもしれませんが、でもそれって正常ではないんですね。

冬に窓ガラスが結露するのは当たり前のように思っているかもしれませんが、それは正直「欠陥」といってもいい環境なんです。

冬の寒い日はガラスはもちろん、枠部分も結露。窓枠が濡れる。

ちなみに新築マンションなら断熱性能も、サッシ性能も高いと思っていらっしゃるかもしれませんが、じつは新築マンションの断熱工事の中身って、昔とあまり変わっていません。

というのも新築マンションの宣伝サイトには仕様の説明があるのですが、断熱材は20mm程度と昔と基本的には変わっていませんから・・・。

窓ガラスはさすがにペアガラスにはなっていますが、そもそもアルミ枠のサッシ自体の性能が悪いため、決して高性能という訳ではありません。なので寒い冬の日はある程度結露もします。

話がそれましたが、ようするに、外部に面している壁の断熱性能と、サッシの断熱性能が悪いために、中古マンションは、基本的には寒い住まいなんです。

その証拠にリノベーション前のかべ表面にはカビがあることも多いんですね。これは壁表面が結露する環境だからなんです。見た目にも不快ですが、これではカビによるアレルギーで健康被害も起きかねません。

クロスを張り替えただけでは一時的なものですから解決にはならないんです。

毎冬に壁が結露する環境なので、カビが発生しやすくなる

中古マンションの夏はエアコンが効かない

断熱性能が悪いということは夏の暑さの影響も強く受けるということ。

コンクリートは熱を蓄える性質が強く、日中、太陽熱によりコンクリートの壁はかなり熱くなります。夜になって気温が下がると、熱い壁は蓄えた熱を放出します。

断熱材の性能が低いので、この熱は室内にかなり伝わります。結果、エアコンをどれだけ運転させても一向に涼しくならない。冷房をつけている一方で、壁からの熱で暖房もしているようなものだから仕方がないんですね・・・。

マンションの中住戸(上下左右にお隣さんがある)であれば外壁面は通常は南北面だけなのでまだ影響は少ない。でも最上階の場合、その暑さはエアコンをつけても全然解消しません。

最上階の場合、天井のコンクリート部分には断熱材が張り付いていますが、その厚さは30mmほど。しかも性能も低いタイプ。中には断熱材がない物件もあったりします・・・。

これでは夏の日射で熱せられた屋上の床(最上階の部屋の真上ですね)の熱は容易に室内に伝わります。

まるでサウナにいるかのようで、近年の猛暑を考えると命に係わるほどの危険な環境です。

また角部屋の場合も東面や西面が外部に面している分、外部からの熱の影響を強く受けるので、同様にエアコンがあまり効かない環境です。

なお最近の新築マンションは屋上部分の外側に断熱材を敷き込む場合(外断熱)もあります。

その場合は夏でもそんなに暑くはならないんですが、中古マンションでは外断熱タイプはまずありません。

壁や天井から熱が放射されるので、いくら温度を低くしても涼しくならない・・・

残念ながら夏の暑さは今後もひどくなっていくことが想定されます。

以前、1980年代と2010年代それぞれについて、夏の最高気温の統計データを比較検討したことがあったのですが、30年の間にかなり大きく気温が上昇していることがわかりました。

この傾向ははより加速していく傾向にあると思います。高い断熱性がなければ夏の日射熱を遮ることは物理的に無理なのです。

 

参考情報:「夏のマンションは暑いのか?」

 

根本的な解決には断熱補強工事が必須

こうした寒さ暑さに対処するのは実はそれほど難しい話ではなく、低すぎる断熱性能を高めればいいだけです。外壁面に断熱材を入れて断熱性能を向上させればいい。

中古マンションには断熱材がない物件もあるが断熱補強をすれば全く問題なく、新築マンションよりも快適な環境にすることも可能(ななめの木は貼り付けのための仮押さえ材)

断熱材は当然性能が高いものが良く、例えば「フェノバボード」と言われるフェノール樹脂系の断熱材は熱伝導率が0.019W/m・Kとかなり高性能です。

断熱材はこの先、より高性能で低価格なものも開発されると思いますので、その時々でベストな商品を選択すればよいです。

その他、吹付による断熱補強という方法もありますが、現場の作業体制などにより、何を選択するのかは施工業者により変わってきます。

南北方向に長くて、北面と南面だけが外壁面というよくあるマンションの場合、外壁面積が少ないので断熱補強のかかる費用は意外と少ないです。

最上階の天井断熱工事の様子。元々の薄い断熱材の上に100mmの断熱材張り付けていく。

なお、角部屋の場合は3面が外壁に面するので面積が増えて工事費がよりかかりますし、屋上の場合は天井面にも断熱材が必要となるためその分コストは増えます。

ただ全てを解体するリノベーション工事であれば全体の工事費から考えれば数%程度

一戸建てと比べるとはるかに少ない予算であるのに、多くの一戸建てよりも快適な環境にすることができるんです(エアコン1~2台で家全体が温度差の少ない住まいになります)。

にもかかわらず、大多数のリノベーション会社は断熱工事をすることはあまりありません(調べたわけではないのですがおそらく)。

それはコストがかかるからという理由もありますが、そもそも断熱改修工事の価値自体をあまり理解していないということもあるようです。

 

暮らし始めてから「寒い・・・」「暑くてかなわん!」となったとしても、あとから断熱工事を行うことはまず無理です。

目には見えにくい部分ですから軽視されがちですが、そんなことにならないよう、リノベーション工事をするなら必須の工事だということを知ってほしいです。

なお家の中の温度差があまりない住まいは本当に快適ではあるのですが、より健康的な暮らしができるからでもあります。

じつは、寒い住まいというのは本当に不健康なんです。下図は断熱改修をした人の改修前と改修後の健康状態の調査の結果をまとめたものです。

医学・建築環境工学の学識者による断熱改修を予定する住宅に居住する方4,131人(2,307軒)について改修前の健康調査を行うとともに、当該住宅について既に断熱改修を実施した方1,194人(679軒)について改修後の健康調査を行った内容です。

断熱性能が高い住まいは様々な健康リスクを抑えるということが実態調査からも明らかであることがわかっています。

なお夏の暑さは通風で対処すればいい、と考える方もいらっしゃいますが、昔と違って現在の都市部の環境は、通風で対処できるレベルではありません。

もしかしたらエアコンはなんとなくエネルギーをたくさん使っていて省エネではない気がする、とか、贅沢では、とためらいを覚える方もいらっしゃるかもしれませんね。

適切な断熱補強工事をすれば、冷暖房費もかなり抑えることができて省エネルギーですし、寒さ暑さの不快感がない住まいで暮らすことは健康リスクを減らすことにもつながります。

 

リノベーションの間取りにも問題がある

ここまで説明してきたように、根本的な断熱性能の不足が暑さ寒さの原因。でもリノベーションをする場合の間取りに問題がある場合もあります。

マンションはLDKはまずまず快適なんですが、ドアを開けて廊下に出るとどうでしょうか?

実際暮らしている方にちゃんと話を伺うと、リビングのドアを開けて廊下に一歩出るとかなり寒いとおっしゃいます。北側にある個室も同様にかなり寒い。

よくある玄関と直接つながる廊下。この間取りはとにかく寒い。

どうしてそうなるのかというと、玄関ドアがスチール製のため、玄関から冷気が侵入し続けるからです。

そして、たいていの場合、寒い玄関と廊下がつながっているので、リビングから廊下に出たら寒いのはある意味当然とも言えます。

また廊下を通って洗面脱衣室やトイレ、洋室が配置されているため、同じように寒くなる。つまりLDKは暖かくてもそれ以外はすべてが寒くなる間取りなんです。

本来であれば高い断熱性能を持った玄関ドアに交換したいところですが、玄関ドアの交換は共有部に該当しますからマンションの場合まず交換できません(同じ理由で窓サッシ部分も交換できません)。

模様替えをするようなリフォーム程度では、残念ながらこの問題を解決することはまずできません。

これを解決するためのポイントの一つは玄関部分を区画することです。下は実際のリノベーションの玄関部分の写真です。

玄関部分と廊下がつながっているままだと寒い

引き戸で玄関と廊下を区画すれば冷気の侵入をかなり防ぐことができる

玄関部分を区画するように引き戸を設けることで玄関からの冷気をかなり防ぐことができます。ヒンヤリ感がずいぶん違うのがわかるんですね。

でも、ネットや雑誌に掲載されているリノベーションプランを見ると、玄関部分で区画してある事例はほとんどありません。

リノベーションをする前の間取りと同じで、LDKと廊下で仕切っているんですね。これではいくら断熱性能を高めても、LDKをでればヒンヤリして大きな温度差が生じます。

玄関を区画しているかどうかで、マンションの温熱環境に対して配慮をしているかどうかがある程度見えてきます。

単純に写真や図面を見ているだけでは暑さ寒さがどうなのかはなかなかわかりにくいです。

そのため暮らし始めてから廊下が寒い、温度差がある、ということに気づくことになってしまうのです。

そうならないためにもマンションリノベーションをするなら玄関部分は必ず区画して欲しいですね。

 

 

暮らしやすい間取りへと変えるために重要な二重床工事

もう一つだけ重要な工事として、二重床工事のことをお伝えします。

不快な寒さと暑さは、断熱補強工事で基本的な対処をし、プラン面で玄関部分を区画することでおおむね解消されます。

ただ実際に暮らしやすい住まいにするためには間取りの工夫も重要です。その中でもキッチンや浴室などの水回りの位置がポイントになります。

リノベーションの事例の多くは、元の配置のままか、あるいは少しだけ位置をずらす程度。

もちろんそれでも暮らしやすいプランであればいいのですが、元のままの配置をベースにすると、どれだけ工夫をしたとしても、限界がでてきます。

「乾式二重床工法」なら水回りの位置を大きく変えることができるので、間取りの可能性がかなり広がります。

コンクリートの床の上に空間ができる乾式二重床工法なら配管の位置を変更できるので、リノベーションプランの可能性がかなり広がる。

キッチンの使い勝手が大きく変わったり、回遊動線ができたりするので、かなり暮らしやすくなるんです。

例えば下のリノベーションのビフォーアフターの事例をみると、水回りの配置がずれていることがわかりますが、トイレとキッチンの配置がこのように大きく変えられるのは二重床工法でなければ実現できません。

約70㎡のリノベーション前の間取り。無理やり3LDKとしてるため暮らしにくく、収納もあまりない。

玄関から回遊動線は使い勝手を良くして通風性を高め、温度差も少なくしてくれます

もちろん、単純に水回りの位置を変えれば暮らしやすい間取りになる、というわけではありません。

位置を変えつつ、マンションの暮らしにくさを解決するアイデアがなければ結局は、見た目だけのリノベーションと同じで快適にはならないし、暮らしやすい住まいにもなりません。

このあたりのプランニングのスキルはリノベーション会社の設計担当者のスキルによりますね。

 

マンションリノベーションの暮らしを快適にするための基本の工事はもっと多くの会社で採用して欲しい

断熱補強工事と乾式二重床工事を採用しているかどうかでリノベーション後の住まいの快適さと暮らしやすさに大きな差が出ることがなんとなくお分かりいただけたでしょうか?

完成したら見えなくなる部分ですが、住み心地を高める工事をすれば、中古マンションが新築マンションや一戸建てよりもコストを抑えながら、はるかに快適でしかも暮らしやすい住まいに変わるんです。

見た目は住まいにおいてもかなり重要な要素ですから、好みによって好きなスタイルのリノベーションをすればいいとは思います。

でもあまりに見た目に偏ったリノベーションが多い・・・。そうした風潮が進めば、マンションリノベーションってあんまりよくないね、という評価にもつながりかねません。

だからこそ、住まいの本質を高めることをもっと重視してリノベーションをすることにもっと力を入れて欲しいと思うんです。そうすれば、きっと、豊かな暮らしができる住まいとなります。

 

以前、「N.style建築工房さんはプラン事例や設計施工のノウハウをサイト上にかなりオープンに掲載してますが、こういった内容は他社にマネされたりする可能性があるのでは?」

という質問を受けたことがあります。

 

確かに私たちのサイトで提供している情報はかなり内容も濃いですし、この地域のリノベーション会社さんのサイトで、断熱がどうこう、二重床がどうこうという説明がしてある会社は見たことがないです(あるかもしれませんが一般的ではない)。

そういう意味ではあまりオープンにはしない方が他社との差別化という意味でも得策かもしれません。

でもより多くの人に、より快適な住まいを手に入れてもらうためには、良質な情報やアイデアはどんどんオープンにしたほうがいいと思うんです。

それに基本的にはまだまだ多くのリノベーション会社さんは断熱補強も二重床工法もあまり採用していないのが現状です(たぶん、ですが)。

二重床工法は採用していたとしても、ちゃんとした性能をもった商品を使い、かつ、施工方法を正しく理解しているかどうかもアヤシイんですね。

だからこうした隠れて見えない部分の質を高めるリノベーションの手法や考え方はもっと広まって欲しいと思ってます。

 

なおプラン自体を真似しようとしても、それに伴う様々な技術、知識、経験、プランをまとめる能力、現場管理の質など様々なことが関連してくるので、総合力が高くなければ快適なマンションリノベーションは、なかなか実現できません。

もっともっと中古マンションリノベーションという業界のレベルアップが必要だと思います・・・。