マンションリノベーションの間取りで失敗しない具体的なポイント

こんにちは!設計の仲田です。

マンションリノベーションでは間取りを変えられるのが一番の魅力!

でも事例をみてもマンションがもともと持っている暮らしにくさを解消していない間取りって意外と多い・・・。

単純に収納を増やすとかリビングを広くするといった考え方で間取りを考えてもうまくいきません。

マンションの特性を踏まえた全体的なプランニングが大事なんです。

 

またよくあるのが「廊下をなくす」というご要望。限られたスペースを有効に活用するためには、ただ行き来するためだけの通路が無駄に思えるわけですね。

でも単純に廊下をなくしたら、その家は暮らしやすい住まいになるのでしょうか?

 

というわけで、今回は暮らしやすいマンションリノベーションプランにはどういうポイントがあるのか?また、廊下をなくすことがいいプランになるのか?そのあたりを詳しく解説していきます。

 

築浅マンションでも間取りを変える理由とは?

2018年新築マンションの間取図

マンションリノベーションでは築年数20年以上という場合が多いです。

でも中には築10年程度の築浅マンションでもリノベーションする方がいらっしゃいます。築浅なのになぜリノベーションするんでしょう?

 

昔と今のマンションの間取りを比べてみるとその理由がわかります。上図は2018年築のある新築マンションの間取図。

もちろん、いろんなパターンがありますし、多少なりとも工夫した物件もあると思いますが、今の一般的なマンションの間取りの特徴をよくあらわしていますね。で、下図が1995年築の中古マンションの間取り図。

1995年築の中古マンションの間取図

こうして比較すると、間取りの要素がほとんど変わっていないことがよくわかります。間取りが変わらないということはさぞかし暮らしやすいはず・・・と思いますよね?

でも実際にマンションに暮らしている方々に伺うと「収納が少ない」「キッチンが使いにくい」「結露でべたべたになる」「廊下が寒い」「リビングダイニングが意外と狭い」・・・といった不満が出てくるんです。

 

間取りが同じであればいくら新しいマンションでも不満が同じになるのは当たり前です。なので新しいマンションだったとしても、間取りを変えたくなるのは不思議なことではないわけです。

ちなみにこれ、それぞれ違う建築会社が建てていますから、マンションの間取りって残念ながら、暮らしやすさについてはあまり検討されていないんだろうなぁ・・・と思いますね。

 

こうした不満はマンションの特性を考慮せず、ただ一般的な大きさの個室を確保するように計画されていることに問題があるからなんです。

 

マンションリノベーションで失敗しない間取りの考え方

うまくリノベーションプランを計画すればこうした不満はちゃんと解決できます。でも雰囲気だけを重視したマンションリノベーションではうまく解決できないんですね。

そういうリノベーションって暮らし始めて、しばらくすると不満がたまってくる・・・。

そうならないためにも、どういう間取りが暮らしにくいのか、そしてそうならないためにはどういう間取りならいいのかについてお伝えしていきます。

 

何も考えていない「個室+クローゼット」型のプラン

さきほどあげたマンションの間取り図を見てもわかると思いますが、マンションってとにかく収納が少ないですよね。

個室にはクローゼット(又は押入)が付属してますが、その他には通路途中の小さな収納だけ。これでは収納が足りないのでどうしても室内は雑然となりがち。

こうなってしまう原因は「大きすぎる個室」に「収納を併設」しているからなんです。一戸建てと比べればマンションの床面積は基本的には小さめです。

にもかかわらず個室の大きさは最低でも5畳以上(だいたい5~8畳くらいが多い)で計画することがほとんど。

また、当たり前のようにクローゼットも併設されますが、これが空間利用の効率をかなり悪くします。

 

そもそも壁一面にクローゼットがあるとそこにはベッドも机も配置できませんから空けておく必要があります。つまりクローゼットの前のスペースはかなり無駄なんです。

結果、床面積に占める個室の割合が大きくなりすぎてしまい、LDKやその他の収納スペースが圧迫されてしまうことに・・・。

マンションの個室にはほとんどクローゼットがついているが、この当たり前の計画が暮らしにくさにつながっている・・・

子供部屋は実は3畳以下でも成り立ちます

これを解決するためには、まず、個室に収納を設けないことが大事。もう少し詳しく言えば、机とベッドが配置しやすいように、壁を計画するんです。

こうすると、無駄に大きかった個室がかなりコンパクトに計画できます。びっくりするかもしれませんが、3畳程度で成り立つんです。

「それはいくら何でも小さい!」って思いますよね?

でも多くの方に、3畳ってこれくらいです、って具体的な大きさを体感してもらうと、「全然いけますね」ってなります。

具体的な大きさでいうと、2.1m×2.1mのサイズがだいたい3畳くらい。

この空間にベッドとコンパクトな机を設置したら、子供部屋としてちゃんと機能するんですね。

もちろん、人によっては小さすぎる、っていう方もいると思いますが、子供部屋を広くすればその分、リビングが狭く、収納は少なくなります。どちらを優先するか?ですね。

 

たぶん、一般的に個室の大きさって畳数で考えることが多いですよね。例えば、6畳の大きさがある、と伝えたほうが使い勝手とは関係なく、大きさが確保されていることで何となく安心してしまいます。

でもその大きさって具体的な家具配置を考えていない、なんとなくの大きさです。結果、無駄に大きかったり、大きい割には使いにくかったりします。

空間の広さの感じ方を一般的な畳数で決めてしまうから失敗するんですね。個室にクローゼットがないほうがマンションでは空間を有効に利用できるということは知っておいた方がいいです。

 

なお、実際には動線とか、出入口の位置など様々なバランスを考慮しながら計画するので、単純には計画できない場合もあります。

このあたりは設計者の力量によって、可能性の広がり方が違ってきますね。

参考記事『個室を小さくして収納をなくす!?』 も併せてご覧ください。

個室にクローゼットをつくらず、まとめて計画した方が、空間を無駄なく利用できます

リビングと廊下を仕切るドアが廊下と脱衣室を寒くする

「マンションってあったか~い」という感想はよく聞きます。確かに古い戸建てよりはかなり暖かいと思います。でもそれはLDKに限った話。

多くの場合、廊下とLDKを仕切っているドアを開けると、玄関からの冷気で床はヒンヤリ、洗面脱衣室も寒い空間になっています。入浴時に裸になる場所が寒い環境というのはお粗末ですよね。

これはLDKと廊下を区切っていることが問題なわけですが、でも廊下と区切らないとLDKが寒くなるという間取りの計画の仕方自体に問題があります(実は基本的な断熱性能が低いから寒くなるという面もあるんですが・・・)。

リビングと廊下を区画するドアを開けるとかなりの温度差が。暮らし始めてから気づく方が多いんです・・・。

また北側にある個室は分断された独立したスペースにもなっているので家の中では一番寒くなります。

そういう空間で寝るのって実はかなり不健康で、体調を崩しやすくなったり、呼吸器系などへの負担が増大するのでより大きな健康リスクにもなります。

このように個室が分断された間取りは、家の中の空気の流れが悪いので、「家全体」を温めたり涼しくすることが非常にしにくい・・・。

そもそも家の中に大きな温度差があるのは、いい住まいとは言えないんですが、この認識って建築業者(リフォーム業者もですね)の中でもまだまだ認知されていないのが課題ですね・・・。

 

そのためか、マンションリノベーションの間取り事例をみると、ほとんど(といっていいくらい)リビングから廊下に出ると寒い!という間取りばかりなんです。

せっかくのリノベーションなのに、こうした目に見えにくい部分への配慮は本当に少ないんですね。

 

これを解決するのは実はそれほど難しくなくて、玄関を区画すればいいんです。

 

え?そんな単純なこと?と思うかもしれませんが、それが基本的にできていない間取りがほとんどです。

マンションの玄関ドアってだいたいスチール製で冬はめちゃくちゃヒンヤリしてます。ひどいと結露してべちゃべちゃに・・・。

新築マンションのドアはそこまでひどくないかもしれませんが、それでも断熱性能は決して高くありません。

イメージ的にはマンションの玄関ドアって氷でできていてひんやりとした冷気を出し続けているような感じと言えばいいでしょうか。夏にそういう環境なら快適なんですけどね・・・(苦笑)

なので、直接廊下とつながらないようにすれば、その冷たい空気の影響を抑えることができるというわけです。本当は玄関ドアを交換したいところですが、基本的には交換できませんので・・・。

参考記事『マンションが寒い理由を知っていますか?』 も併せてご覧ください。

 

普通の対面キッチンは意外と使いにくい

ほとんどのマンションは間取り図のような対面キッチン型なのですが、多くの方がキッチンが使いにくいとおっしゃっています。

実際、ちょっと考えただけでも、キッチンまわりには冷蔵庫はもちろん、食器棚や食料品などの収納スペース、電子レンジなどの電化製品、そしてごみ箱を置く場所といったことが必要なはず。

でも一般的なマンションの対面キッチンでは、これらを配置するにはスペース的に無理がある・・・

仮に形だけ配置できたとしても収納量が少なかったり、使いにくくなったりします。

ダイニング側に食器棚が出てきたりしますし、キッチンの上やダイニングテーブルの上にもモノがでてきたりして雑然とした使い方になりがちなんですよね・・・。

普通の対面キッチンではダイニング側に食器棚が出たりします。これでは動線的にかなり使いにくくなる・・・

では対面キッチンはダメなの?と思うかもしれませんが、そうではなくて、こういう欠点を考慮して対応できるように計画すれば問題ありません。それができるのが「開いた対面キッチン」という考え方です。

簡単に言うと、キッチンへ二方向から出入りできる、ということと、リビングダイニングを横から眺めるような感覚で配置するということ。

キッチンが二方向からアプローチできる開いた対面キッチン

こうすれば対面キッチンの良さを生かしつつ、使い勝手も、動線も良くなるんですね。配管の位置を変更できる設計能力が求められます。

参考記事『開いた対面キッチンで計画する』 も併せてごらんください。

 

廊下をなくすプランのポイント

マンションは南北に長いタイプが多い。なのでどうしても中央に細長い廊下を計画しがちです。

でもただ通るだけの廊下がある間取りはあまりいいプランとはいいにくいですね。ではどうすればいいのか?

 

一つ目のポイントは廊下に面して収納を計画する方法です。プラン1がいい参考例。

 

参考プラン1。洋室1に収納をなくしている。通路に面して収納があれば空間を有効に使える。

 

廊下をなくす、と言っておきながら廊下があるじゃないか!と思うかもですが、よく見てもらえばわかると思いますが、通路上にはCLO1とCLO2があります。

イメージとしては、WCLOの中を通って奥の部屋に進む、という感じになります。だから使いやすく、無駄にならないんですね。

なお通常だと洋室1から使うCLOとして計画するため、CLO1と2は洋室側に向けて計画されることが多いですが、このプランでは室内側は壁なので、家具配置がしやすいこともわかります。

廊下側に収納があることで廊下がたんなる通路になっていない、というわけです。

 

廊下でCLOを使うというのはちょっと違和感があるかもしれませんが、そもそも個室にはCLOを併設するという固定観念にとらわれているから違和感があるだけです。

冷静に、効率や使いやすさを考えれば、個室にCLOを併設しない方が、空間が有効に使える可能性が高くなります。

 

プラン1と似た手法がプラン2。

参考プラン2。動線と収納をうまく考えた事例。洗面を独立させて洗面スペースも通路と兼用している。

メインの廊下は通路ではあるんですが、こちらも感覚としてはWCLOの中を通って奥に進むような配置になってます。

また洗面台を脱衣室と分離させてるんですが、その洗面スペースが通路と兼用となってます。これも収納と同じく、使うスペースに通路機能があるのでスペースを有効に活用できていますし、動線的にも使いやすくなってます。

廊下左は壁一面の大容量収納。右側はですが、その反対側が収納スペース。高さを抑えているので、圧迫感も少ない。間接照明などで感じよい空間にもなる。

 

このれらの事例をみると、CLOや収納ってただスペースがあればいいのではなく、出し入れしたりするために、その前にもスペースが必要だということがわかりますよね。

 

これを踏まえるとたんに収納量が多いって言葉だけでは収納計画はうまくいきません。

収納する長さ、いわば「収納長」で考えたほうが、収納する量と使い勝手がよい収納計画が実現できるわけです。

収納面積が多い=いい収納計画ではないんですね。

ポイントとしては使う時に使いやすいのか?家具の配置は大丈夫か?そして動線がいいか?

そこが大事だと思います。

 

最後にもう一つの事例を。

これは収納としては少しスペースが小さい。本来なら玄関正面からキッチンへと抜ける動線をなくしてWCLOの収納を増やしたほうが、収納量はもっと増えます。

 

 

ただそうするとキッチンへの動線がちょっと大回りになる感じです。

またWCの下の位置は洗面スペースなんですが、収納を増やせばキッチンの奥に洗面があるため、それもちょっと違和感のある計画。

 

この計画ではこの動線はやはりつぶせないんですね。となるとこれは単なる通路というわけです。でもただの通路だから無駄だ、という単純な評価にはならない通路ですよね。

使い勝手をよくしたり、通風性を高めたり、回遊性による室内の温熱環境の向上など、違った評価軸も出てきます。

なのでただ「廊下をなくす」という形ばかりにとらわれてしまってもいけないわけです。

暮らしやすくなる手法かどうか?それが根底にあることが大切ですね。

 

いくつかの事例を紹介しましたが、誤解して欲しくないんですが、これは住まいの大きさからくる制約や、個室に何を求めるか?ということとも関係してきます。その人の暮らし方だってありますしね。

だから最初の方で個室にはCLOがない方がいいからなくそう!と短絡的に判断しないでください。場合によってはCLOが個室側にある方がよくなる場合だってあったりします。

例えばベッドを使わない場合だと個室内に面した布団収納が必要になる場合もある。でも人によってはやっぱりいらない、という場合だってある。

 

中古マンションの状況と、暮らし方を踏まえて、どうしたらそこで快適に暮らせるのか?そこが大事なことなのであって、こうした手法を表面的に理解しているだけだと、良い住まいにはならないのです。

 

 

まとめ~間取り=パズルとしてるとマンションリノベーションは失敗します

その他にも結露がひどい、玄関が狭いとかいろいろな不満があるのですが、一般的なマンションが暮らしにくい理由がご理解いただけたでしょうか?

せっかくリノベーションをするのであれば、そういった暮らしにくさを解消する計画になっていることは必須だと思います。

なおここで提示したポイントを考慮して間取りを考えるためには間取りをパズルとして見ているレベルでは絶対にうまく計画できません。

今回は解説しませんでしたが、

・配管の計画の仕方
・床の高さの設定
・梁の干渉の考慮
・断熱補強の適切な性能設定
・二重床工法

・・・などなど、設計面と施工面についての多面的で細かな配慮、そういう工事が必要な理由を理解していることも必要になるからです。

そういう意味では一般の方がマンションリノベーションの間取りを考えるのは戸建てよりはかなりハードルが高いため、残念ながら現実的ではありません。

なので計画したリノベーションプランがマンションの問題を解決しているかどうか、という視点で間取りチェックをするといいと思います。

最後に、もう一つだけ注意点として。

マンションリノベーションの間取りは、実は図面だけではなかなか広さの感覚がイメージしにくいという点があります。

体感すると思っているよりも狭いなぁ、あるいは広いなぁ、などと感じることがあるんですね。実際、見学会でリノベーションのプラン図を見ながら体感してもらうと、

「図面からこういう空間になるのは想像できないですね」

「図面だと狭く感じるけど全然イメージと違う」

という感想をいただきます。

一戸建てと違って、単純に個室が6畳、リビングが10畳、というように畳数で広さを把握しにくいのがマンションリノベーションです。

開放感や照明計画などは図面だけから読み取ることはなかなか難しいですが、身体感覚が心地いい寸法や素材の見せ方を熟知している設計者と一緒に作りあげると、中古マンションは新築マンションよりも暮らしやすくなる

そういう意味ではできれば、実例見学して確かめた方がより安心できるのではないかと感じます。

 

ちなみに、手書きのイメージ図などで格好よくプレゼンされる場合もあると思いますが、実際よりも「いい感じに脚色」されがち。

実際、ある相談を受けた際に見た図面は非常に上手に表現されていて、ものすごくよく見えるんです(苦笑)。

でも実際には収納計画も、暮らし方もいろいろ突っ込みどころが満載という・・・。

 

暮らす、ということを丹念に考えたリノベーションプランは、実際に見学するとその暮らしやすさがよくわかります。検討しているリノベーション会社があるなら、実例の確認をすることをおすすめします!

せっかくマンションリノベーションをするなら、マンションが持っている住みにくさを解消する計画をして欲しいなぁ・・と思います。