おしゃれなマンションリノベーションで失敗しないために

設計の仲田です。ネットでマンションリノベーションの施工事例写真を見ていると何だか「おしゃれ~」な感じのものが多い。

まあ、見た目の雰囲気ってその人の好みなのでどんなタイプのものでも基本的にはいいと思います。

 

個人的な感覚なんですが、写真を見て、その人の趣味とか、暮らし方が見えてくるような写真だと、いいリノベーションだな、って思いますね。

 

ただそうしたおしゃれな写真の事例が自分に合うのかどうかはまた別問題。

 

おしゃれなリノベーションをしたけれど「暮らしにくくて、快適じゃない!」なんて失敗談を目にするとちょっといたたまれなくなります・・。

見た目を過剰に重視するリノベーションって、暮らし初めてからようやくその不快さに気づくんですよねぇ・・・

 

でもリノベーションを検討中の方って、そういう「暮らす」という部分とは別の次元で、いいな~って思うスタイルに興味や憧れを持ってしまうから、どうしても見た目を優先しがちです。

 

今回、コンクリート打ち放し型カフェ風という人気のマンションリノベーションスタイルを事例に、快適で暮らしやすい住まいにするにはどうしたらいいのか?をまとめてみました。

 

コンクリート打ち放しのマンションリノベーション

<スタイリッシュに好きなようにコーディネートしたい人に向いている>

コンクリート打放し仕上げ。外壁面がむき出しだと夏は暑く、冬寒い家になる(写真はイメージです:photo AC)

マンションリノベーションではよくある手法の一つが壁や天井の仕上げをせずに、コンクリート打ち放しのままとする方法ですね。配管もあえて見せたり。このスタイルはいわば「楽屋裏」を見せることで余計な装飾をしていないよ、という「武骨なシンプルさ」を好む人に向いていると思います。

 

無機質なコンクリートが見えているからと言って冷たい感じになるわけではなく、室内に取り入れる仕上げの素材感をより引き立たせるので、かえって温かみを感じさせる空間を作り出すことができたりしますね。

様々なインテリア、観葉植物、ファブリック、家具、などとの組みあわせにより、自分好みのスタイリッシュな空間を作りやすい。そうした楽しみがあるのも魅力だと思います。

 

<シンプルに計画することの注意点>

こうした方向性の場合、住まいの基本計画がシンプルな間取りになりがち。がら~んとした広い空間に、部分的に棚をつけるような感じでしょうか。

 

そうしたやり方自体はいいんですが、その場合、出来上がったプランの中に、かなり細かく実際に暮らす際の情報を書き込んで検討して欲しいです。

 

「とりあえず広く作っておけば、あとから自分らしく調整できますよね」なんてアドバイスを真に受けて、細かな検討をしないままにすると、使いにくい、暮らしにくい、変な所に飾り棚がある、ということになったりします。

 

自由にできる余地があるからこそ、具体的に暮らすことを検討しておかないと、いい計画なのかどうかが見えてこないんです装飾的なモノも含めて、どこに何を配置するのか?ベースとなる暮らし方をまずは一つ作り上げる方がいいですね。

 

普通の方ならばどうしてもいろんなモノが周りにはあるわけで、シンプルな計画にしたからシンプルな住まいになるわけではなく、モノの収納を具体的に考えない限りは雑然となります。

 

 

参考ブログ: 「マンションリノベーションの収納計画あれこれ」

 

<何も考えないと暑くて寒い>

実際のこうしたコンクリート打ち放しのリノベーション事例を掲載しているサイトを見ると、とても簡単に、暑くて寒い住まいになりがち、と説明がしてあります。

にもかかわらず、大した解決法は示してません。なんとも無責任な・・・。

 

何も考えないでつくると、熱射病になるような真夏は冷房を付けても一向に涼しくならず、寒い冬は暖房してもなんだか快適な暖かさにならない、というような住まいになるはずです。

 

基本的には外部に面したコンクリート壁は断熱材を張り付けることが必要です。そうしない限り、暑さ寒さ対策はできません。

 

当然ながら、最上階なのに天井もコンクリート打ち放しのまま、なんて住まいにしてしまうと夏は住めないほど暑い家になります。

どれだけ高性能なエアコンでもマンションの基本性能が悪ければちゃんとした冷暖房の効果を得ることはできません・・・

 

こうした暑さ寒さのリスクを過小評価して「コンクリート打ち放しの家っていいですよね!」って感覚だけで住まいをつくるのは本当にやめて欲しいです。きっと後悔しますから。

 

どうしてもコンクリート打ち放しの住まいにしたいのなら、基本的には中住戸の物件を選ぶ方がいいですね。両側の壁と天井面がコンクリート打ち放しのままにできるので。

角部屋や最上階は見せる面積も少なくなりますし、避けたほうが無難だと思います。

 

参考ブログ: 「暮らしてから後悔しないためにも絶対にしておくべき工事とは?」

 

カフェ風リノベーションは自分に合っているか?

<見せる暮らしを楽しめる人には向いている>

カフェ風の住まいは感じもいいけど、人によって向き不向きがあると思う(写真はイメージです:photo AC)

カフェ風のマンションリノベーションはかなりの人気スタイルだと思います。個人的にもカフェ風の雰囲気って好きですね。

 

いろんな雑貨類が感じよく飾ってある雰囲気は見ているだけで楽しいですしね。使う小物類を選ぶのも楽しい。

 

ただ、カフェスタイルって、基本的には「見せる=魅せる」スタイルなんですね。なので見せることを楽しめないと、ちょっと大変な面もあります。

 

生活する上ではあまり見せたくないものもあるでしょうし、使い勝手と飾り方がマッチしないということもあるでしょう。

 

たとえばキッチンまわりでは、感じのいい小瓶なんかに調味料とか入れて使うとそれだけで雰囲気もよくなります。パスタなんか細長い瓶に入れて保管したりとか。

 

ただそういう使い方が自分に合っているのか?面倒だな、暮らしにくいな、使いにくいな、とならず、楽しめることができたら、いいと思います。

 

<この先ずっとカフェスタイルで暮らせるか>

個人的に気になるのはこのカフェスタイルでの暮らしをずっとしていけるのか?という点です。見せる暮らしの雰囲気が自分自身を心地よくするものであれば問題ないと思うんですが、日常生活をする上で、ちょっと窮屈さとか、面倒くささにもつながるような気がします。

 

「カフェ風」で縛られたデザインにするということは、それ以外の暮らし方がしにくくなる面もあるわけで、ならば、必ずしもそのデザインにこだわらなくてもいいのではないか?

 

見せたりもするけど、それは「カフェ風」という定型的なフォーマットにとらわれ過ぎない形でもいいんじゃないか、と。

 

そうした緩さがあった方が、ラクチンな気がするんですね。余計なお世話かもですが・・・。

 

なので、もしもいわゆるカフェ風なデザインでリノベーションするつもりなら、長い目で見た暮らし方が自分にあっているかどうかを、少しだけ客観的に吟味してみてもいいのかな、と思いますね。

暮らす、を根っこにすると飽きの来ない、暮らしやすい空間になる

 

リノベーションのスタイルに関係なく大事なこと 

代表的な二つのスタイルについて簡単にお伝えしておきました。ここからはそうしたスタイルとは関係なく大事なことを。

いろいろ注意したいことはあるんですが、3つに絞っておきます。

 

<ただ広いだけの空間にはしない>

リノベーション済みとして販売されていた事例。確かに広いがこれではどうやって生活するのかが見えてこない。

リノベーションプラン例を見ると広いスペースを取っている事例が見受けられます。そうしたプランでよくあるのが、ソファとTVとダイニングテーブルをそれらしく配置したらおしまい、というパターン。これ、たいていはモノがあふれて雑然とした住まいになります。

 

マンションリノベーションの間取りというのはただ広くすればいいのではなく、カッコよくすればいいわけではない。どう過ごすのか?どう暮らすのか?を考えて、うまくスペースが使い、居心地をよくすることが重要なんです。

 

下の写真は上の物件をリノベーションしなおした住まいです。食事だったり、調理だったり、様々な生活シーンをどうするかを考えて、ちゃんとスペースの使い方を整理してます。空間は仕切られていますから、単純に見た目の広さは小さくなってはいますが、同じ物件とは思えないほど暮らしやすく、豊かな空間になっています。

 

 

マンションって基本的には一戸建てよりもコンパクトなものが多いわけで、そういう条件で間取りを考える場合は、数値的な広さでは計画するとうまくいきません。

そうではなくて、身体的に必要な広さと、視線の抜け、素材感などをうまく組み合わせて計画しないと、空間をうまく活用することも、居心地のいい空間にもできないんです。

 

<配管は基本的にすべてやり替える>

見た目をきれいに整えてるリノベーションでも、古い配管まで新しくしている事例は少ないと思います。というのも工事中の写真を掲載している事例を見ていると、床、壁、天井を極力壊さずに、使えるものはなるべく使ってリノベーションをしているから。

 

もちろん、コストを抑えるという点ではそういう方法もアリだとは思います。ただ、大きくリノベーションをする際に、古い配管をそのまま使うという姿勢はどうなんだろうか・・・。

 

すでに20~30年それなりに使われており、しかも、漏水が心配な鋼管などの素材です。それをまたこの先何十年も使って暮らしていくというわけです。せっかく新しくするのに、漏水のリスクについてはなんら配慮しない。

古いマンションでは鋼管製の給水管や銅製の給湯管を使っていることが多い。

コンクリートに埋設してない限り、できる限りメーターボックスのある給水から新しくやりかえるべきです。漏水リスクが少ない樹脂配管は必須ですね。

コストの問題はわかりますが、プロであればそのリスクも十分説明することが必要だと思います。

古いマンションであれば、すべての配管をできる限り交換するべきですし、見た目よりも優先すべき事柄ではないか、と思いますね。

 

<玄関を区画しているか?>

最後は温熱環境について。マンションって築年数が20年程度でも、断熱性能は低い。また玄関ドアや窓の性能はかなりショボい・・・。にもかかわらず、マンションは暖かい、というような思い込みみたいなものがあるためか、断熱工事をする会社は残念ながらまだまだ少数派です。

 

断熱工事をしない、というスタンスにも問題はありますが、何よりもそういう姿勢だと「温度のコーディネート」という視点がまったくでてこないんですね。目に見えない温度をどう設計するか?という視点です。

 

ほとんどのリノベーションプランって、玄関と廊下がつながっています。まあ、当たり前といえば当たり前なんですが、そういうプランを計画しているということはそもそも住まいの中の温度差について、基本的に何も考えていないんです。

 

だって冬の寒い日にリビングのドアを開けて廊下に出たら寒い、という住まいなんですから。ちゃんと考えていたら玄関と廊下は区画するはずなんですけどね。下の写真は区画している事例。

 

 

玄関の断熱性能が高ければ区画する必要はないんですが、すでにお伝えした通り性能はショボいわけです。なので玄関を区画することで、廊下部分の暑さ寒さがかなり軽減されます。

うまくプランニングすれば、エアコン一台で家全体を冷暖房することも可能で、不快な温度差のない住まいにすることができるんです。

 

こういう視点って実はたいして特別なことでもないんですが、多くのリノベーションではこういう計画はされてません。結果、元々のマンションと同じく寒い廊下のままだったりします。

 

プラン的に配慮すべきことなどはまだまだいろいろとありますが、以上が最低限、抑えておいて欲しいポイントです。

 

時間が経っても陳腐化しない住まい

人の好みもそれぞれですから、いろんなデザイン、雰囲気の住まいがあってもいいと思います。

 

ただ、長く暮らしていく、使っていくという視点からもデザインの評価はしておいた方がいいと思います。それは暮らす人自身も考え方、好み、暮らし方が変わっていくからです。

 

であれば、普遍性があり、流行に左右されず、経年変化にも耐えうるデザインであること、メンテナンス性にもすぐれていること、そして暮らしやすいこと。

私自身はそれを実現するには、自然の素材をベースとして住まいのプランと仕上げをつくり上げるというスタンスが必要だと考えてます。

時の経過にも耐えるデザインは単なる形だけのことではなく、暮らしやすさと居心地の良さを実現したうえで、素材感をうまく生かすことだと思います。

 

経年変化に伴う劣化はどんな素材で合っても生じますが、自然の素材は劣化というよりも暮らしに馴染んで居心地をよくしてくれますが、人工的な建材ってそもそもチープな素材感ですし、経年変化により美観的にも劣化としてしか評価できない素材です。おそらくは将来、またリフォームせざるを得ないようになる・・・。

 

デザインは単なる見た目の形状というものではなく、耐久性、機能性、素材の質感から受ける印象、使い勝手、心身に与える影響など実に多くの指標を含んでいます。

 

見た目から入りつつ、こうしたいろんな指標もそこに加えて評価をしていき、質の高いリノベーションにつなげて欲しいですね。