GL工法のデメリットは結露と騒音
設計の仲田です。今回はあまり気にされていないけれど、その後の暮らしに大きく影響する可能性があるGL工法の懸念点についてお伝えします。
GL工法は比較的お手軽で多くのマンションで採用されているんですが大きく2つの問題があるんです。
一つは壁が結露してカビが生じるということ。そしてもう一つは隣戸の生活音(騒音といってもいいかも)が聞こえてくるということ。
そんな問題があるのに、どうしてGL工法が採用されているのか?という疑問はありますが、こうした住まいの問題ってあまり知られてないだけで、他にもいろいろあります。
たぶん、コストを抑えること、工事が簡単なことを優先するのが建設業界の体質でもあるので、問題が生じてもすぐに改善とはならないんでしょうね・・・。
ここでは問題が生じる原因と、リノベーションの際に注意しておきたいポイントについてお伝えします。
GL工法の欠点1:結露とカビ
一般の方にはあまり馴染みがない言葉ですが、GL工法というのは、接着材(GLボンドといいます)を練って、コンクリート面に団子のようにつけて、プラスターボード(石膏の板です)をペタっと貼りつけて壁をつくる工事方法のこと。
この接着剤は固まればコンクリートみたいに硬くなるので、その後壁が動くことはありません。比較的お手軽に壁ができてコストも安いためかなり多くのマンションで採用されています。
ただこの方法だと外壁面で熱が伝わりやすい部分ができます。GLボンドがついている面で結露するんです。
わかりにくいと思うので、まずは下の解体途中の写真を見てください。
正面の壁は隣戸のため断熱材はありません。ただ右側の壁は外部に面しているので断熱材が吹付けてあります(黄色っぽくなってる部分です)。
その断熱材部分の上からGLボンドが貼りついているのがよくわかりますね。
このGLボンドが貼りついている部分で結露がおきるんです。
もう少しイメージしやすいように、結露が起きる時にどうなっているのかをあらわしたのが、下の断面図です。
もともとマンションに吹き付けてある断熱材は20mm程度とかなり薄く、基本的な断熱性能は非常に弱い(実はこれ、中古マンションに限らず、新築マンションであってもほぼ同じ)・・・。
なのでGLボンドがある部分はコンクリートからの冷気がダイレクトに壁に伝わります。
そのため壁表面がかなり冷たくなり、結露が生じやすくなるというわけです。
実際、解体時に壁のプラスターボードを見ると、表面にカビがある場合もあるんですが、壁の裏側がカビていることも多いんですね。結露が繰り返されることでカビが発生するわけです。
壁の結露はわかりにくい現象ですし、そもそも冬の寒い時期に結露が発生することは自然現象だから仕方ない、という風潮があります。
ただ断熱材がある部分でGL工法を行わなければ、少なくともここで説明したような結露は生じません。「欠陥」といっても差し支えないほど、考えられていない工事と言えます。
GL工法の欠点2:隣戸の音
もう一つの欠点が音です。隣戸からの音や場合によっては離れた住戸からの音が聞こえてくる場合もあるんです。
いろいろと調べてみると、どうやら太鼓現象が原因と思われます(①~③の流れ)。
①コンクリートに貼ったプラスターボードが音で振動する
②その振動が固まったGLボンドを介して、コンクリートに伝達され、隣のプラスターボードにまで伝わる。
③プラスターボードが振動して音が伝わる
私たちは学者ではないですし、厳密に工事の前後で騒音の違いを調べたわけでもないですが、どうもこれが原因とみて間違いなさそうです。
というのも以前、音に悩まされていた方の住まいで、このGL壁を解体したら多少なりとも状況が改善されたことがあったんですね。
ただ騒音の原因は複合的な要素もあるし、人によって感じ方も違います。同じような工事をしていても騒音がない場合もある・・・。
なかなか判断が難しいんですが、少なくともGL工法の壁は音を伝達させる可能性が高いということは知っておいた方がいいでしょう。
GL工法の壁は基本的には撤去したほうがいい
マンションリノベーションを行う場合、会社によって工事のやり方はいろいろです。
ここで解説した知識がなければ、既存壁を利用する工事自体が問題なんだとはそもそも思いません。
また知識はあってもコストを抑えるためにそのまま利用するという会社の場合は、プロとしての判断に疑問が残ります。
予算のこともあるので悩ましいとは思いますが、ここまでお伝えしてきた欠点を考えれば、リノベーションをするのであれば、基本的にGL壁は撤去すべきですね。
ではもしもそのまま利用した場合にはどんな問題が生じるのか?
外壁に面している壁がGL工法で、そのままクロスの張り替えをした場合結露はなくなりませんから、後々カビが生じる可能性が高いでしょうね。
仮に既存の壁の上から新しくプラスターボードを貼ったとしても、断熱性能はほとんど変わりませんから結露してカビが生じる可能性はなくなりません。
また隣戸に面している壁がGL工法の壁で、同様にそのままクロスの張り替えなどをするような場合には音の問題が出るかもしれません。
上からプラスターボードを貼る場合はもしかしたら、振動が多少なりとも抑制されるので改善されるかもしれませんが、うまくいくかどうは何とも言えません・・・。
いずれにしても、GL工法の壁を再利用するのは、その後の快適性へのリスクが大きいので、撤去をするのが大前提だと思います。
撤去後はどういう工事をすればいいのか?
ここで事例を一つ。下の写真は外壁面がGL工法だったマンションの解体後の写真。白い部分はGLボンドを撤去した跡です。
正面の壁の外は外部なので本来なら断熱材が必要な部分ですが一切ありません・・・。そのためカビも生じています。
仮に元々の壁をそのままにして表面だけきれいにしたとします。断熱補強工事はできませんから、壁の中と壁の表面とで結露はずっと生じる環境のままです。そのうちカビも発生するでしょう・・・。
そうならないためには適切に断熱工事をする必要があります。この事例ではあらたに40mmほど断熱材を吹き付け、その後、木製下地を構築しました。
欲を言えば断熱材はもっと分厚くしたいのですが、あまりに厚くし過ぎると室内側は狭くなるので、性能とのバランスを踏まえて設定をします。なお木製下地の間の空間は電気配線のスペースにも活用できます。
マンションリノベーションの場合、こうした目に見えない部分の工事は配慮が足りない場合が多い・・・。もちろん、既存の状況によって、完璧にできない部分はありますし、何より予算の問題もある。やればやるだけコストはかさんでいきますから。
ただ、やはりプロである施工業者側が、お客さんに対してしっかりと説明をすべきなんですけどね・・・。
壁を壊さなければコストが下がります、というメリットだけの説明であったり、そんな説明すらせずに、安くやります!という金額だけの説明ならかなり不誠実。
個人的にはマンションリノベーションにおいては、こうした目に見えない部分だけれど後々の暮らしの快適性に影響する部分については、説明の義務づけをすべきではないかと考えてます。
そうしないと知らないことでのリスクがすべて住まい手さんに押し付けられてしまうように思うんです。
仮に暮らし始めてからやっぱりやりたい、と思っても、後からやるのはまず無理です。でもそういうことを住まい手さんは当然知らない。
だからこそ、私たち専門業者は暮らしの快適性に直結する部分はやはり優先して適切な工事をすべきですし、その必要性はしっかりと説明をした方がいい。
なかなかわかりにくいと思いますが、目に見えない部分の工事をどうするのか?ということについては工事業者にしっかりと説明を求めましょう。